定額残業代が裁判で否認されない設計と運用について⑥

3.定額残業代の設計のポイント(前回のつづき)

⑥ 定額残業代の計算根拠が明確であること

計算根拠や計算式に間違いがあると、否認されるリスクが高まります。○時間分の残業代相当額としているのに、いざ計算してみると全く合わない場合など、きちんと管理する気がないという印象を与えます。

相手側弁護士でも裁判官でも誰が計算しても間違いがないようにしてください。

導入当初は正しい計算式で運用していたのですが、昇給や手当が増えるうちに計算が合わなくなるケースがありますので、その都度計算が合うか必ず確認してください。

⑦ 就業規則や賃金規程、雇用契約書などに明示していること

このような明示した書面がないと定額残業代について同意があったかが証明できません。

「口頭で説明し、同意した」と会社が主張しても信用できません。

就業規則や賃金規程でルールと計算式を明確にし、従業員にきちんと説明し、同意を得たうえで雇用契約書などにサインをもらっておくことが裁判では重要な証拠となります。

⑧ 個々の従業員へ説明し、同意を得ていること

定額残業代制度を導入する場合やその内容を変更する場合で従業員に不利益になるときは、「労働条件の不利益変更」になりますので、従業員一人一人の同意が必要となります。

同意しなかった従業員は、残業代を法律どおり計算して支払うよう要求することが可能です。ですので、きちんと説明し、雇用契約書や同意書にサインをもらうプロセスを怠ってはいけません。

従業員に不利益になる場合は、同意を得ることが難しくなりますので、他の労働条件について従業員に有利になる提案をするのが望ましいです。

4.まとめ

定額残業代はきちんと運用しないと裁判で否認されるリスクがあります。

定額残業代を否認されると会社が想定していた以上の多額の未払い残業代が発生します。

会社としては定額残業代の分も含めて、ある程度の高額な給与を払っているつもりなのですが、定額残業代を否認されますとその高額な給与から時給単価を計算され、さらに未払いの残業代を計算されますので、想定していた以上の大きな金額になります。

上記のように定額残業代は大きなリスクを伴いますので、きちんと運用できないのであれば導入するべきではありません。

また定額残業代をきちんと運用している会社であれば、定額残業代をやめて、法律どおり残業代を計算して支給することも可能なはずです。(それにより手取り額が減る従業員がいる場合は問題もあります。)

定額残業代は、リスクが大きいだけでなく、従業員のモチベーションを下げることにもつながりやすいのでデメリットも大きい制度です。

リスクがなく、従業員のモチベーションを上げる賃金制度に変えていくことをお勧めします。

大谷雄二

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