「第14次労働災害防止計画」について労働政策審議会が答申

厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会は、厚生労働大臣に対し、「第14次労働災害防止計画」について答申を行い、これを公表しています。これは、昨年9月から同審議会の安全衛生分科会において審議を重ねてきた結果に基づくものです。労働災害防止計画は、労働災害の防止のために、国、事業者、労働者等の関係者が重点的に取り組む事項を定めたものです。第14次計画は、2023年度を初年度とする5年間を対象としたもので、計画の目標と重点対策は以下のとおりとなります。

<計画の目標>
重点事項における取組の進捗状況を確認する指標(アウトプット指標)を設定し、アウトカム(達成目標)を定める。
●労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進
アウトプット指標
・転倒災害対策(ハード・ソフトの両面からの対策)に取り組む事業場の割合を50%以上とする。
・卸売業・小売業/医療・福祉の事業場における正社員以外の労働者への安全衛生教育の実施率を2027年までに80%以上とする。
・介護・看護作業において、ノーリフトケアを導入している事業場の割合を2023年と比較して2027年までに増加させる。

アウトカム指標
・増加が見込まれる転倒の年齢層別死傷年千人率を2022年と比較して2027年までに男女ともその増加に歯止めをかける。
・転倒による平均休業見込日数を2027年までに40日以下とする。
・増加が見込まれる社会福祉施設における腰痛の死傷年千人率を2022年と比較して2027年までに減少させる。

【千人死傷率とは?】
年千人率は、1年間の労働者1,000人当たりに発生した死傷者数の割合を示すものです。

●高年齢労働者の労働災害防止対策の推進
アウトプット指標
・「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(令和2年3月16日付け基安発0316第1号。以下「エイジフレンドリーガイドライン」という。)に基づく高年齢労働者の安全衛生確保の取組(安全衛生管理体制の確立、職場環境の改善等)を実施する事業場の割合を2027年までに50%以上とする。

アウトカム指標
・増加が見込まれる60歳代以上の死傷年千人率を2022年と比較して2027年までに男女ともその増加に歯止めをかける。

●労働者の健康確保対策の推進
アウトプット指標
・企業における年次有給休暇の取得率を2025年までに70%以上とする。
・勤務間インターバル制度を導入している企業の割合を2025年までに15%以上とする。
・メンタルヘルス対策に取り組む事業場の割合を2027年までに80%以上とする。
・使用する労働者数50人未満の小規模事業場におけるストレスチェック実施の割合を2027年までに50%以上とする。
・各事業場において必要な産業保健サービスを提供している事業場の割合を2027年までに80%以上とする。

アウトカム指標
・週労働時間40時間以上である雇用者のうち、週労働時間60時間以上の雇用者の割合を2025年までに5%以下とする。
・自分の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスがあるとする労働者の割合を2027年までに50%未満とする。

上記のアウトカム指標の達成を目指した場合、労働災害全体としては、少なくとも以下のとおりの結果が期待される。
・死亡災害については、2022年と比較して2027年までに5%以上減少する。
・死傷災害については、2021年までの増加傾向に歯止めをかけ、死傷者数については、2022年と比較して2027年までに減少に転ずる。

<計画の重点対策>
次の8つの重点を定め対策を推進する。
●自発的に安全衛生対策に取り組むための意識啓発
【労働者の協力を得て、事業者が取り組むこと】
・安全衛生対策や産業保健活動の意義を理解し、必要な安全衛生管理体制を確保した上で、事業場全体として主体的に労働者の安全と健康保持増進のための活動に取り組む。
・国や労働災害防止団体が行う労働安全防止対策に係る支援及び労働安全衛生コンサルタントを活用し、自社の安全衛生活動を推進する。

●労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進
【労働者の協力を得て、事業者が取り組むこと】

・転倒災害は、加齢による骨密度の低下が顕著な中高年齢の女性を始めとして、極めて高い発生率となっており、対策を講ずべきリスクであることを認識し、その取組を進める。
・筋力等を維持し転倒を予防するため、運動プログラムの導入及び労働者のスポーツの習慣化を推進する。
・非正規雇用労働者も含めた全ての労働者への雇入時等における安全衛生教育の実施を徹底する。
・「職場における腰痛予防対策指針」(平成25年6月18日付け基発0618第1号。以下「職場における腰痛予防対策指針」という。)を参考に、作業態様に応じた腰痛予防対策に取り組む。

●高年齢労働者の労働災害防止対策の推進
【労働者の協力を得て、事業者が取り組むこと】

・「エイジフレンドリーガイドライン」に基づき、高年齢労働者の就労状況等を踏まえた安全衛生管理体制の確立、職場環境の改善等の取組を進める。
・転倒災害が、対策を講ずべきリスクであることを認識し、その取組を進める。
・健康診断情報の電磁的な保存・管理や保険者へのデータ提供を行い、プライバシー等に配慮しつつ、保険者と連携して、年齢を問わず、労働者の疾病予防、健康づくりなどのコラボヘルスに取り組む。

●多様な働き方への対応や外国人労働者等の労働災害防止対策の推進
【労働者の協力を得て、事業者が取り組むこと】

・コロナ禍におけるテレワークの拡大等を受けて、自宅等でテレワークを行う際のメンタルヘルス対策や作業環境整備の留意点等を示した「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(令和3年3月改定。以下「テレワークガイドライン」という。)や労働者の健康確保に必要な措置等を示した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和4年7月最終改定。以下「副業・兼業ガイドライン」という。)に基づき、労働者の安全と健康の確保に取り組む。
・外国人労働者に対し、安全衛生教育マニュアルを活用するなどによる安全衛生教育の実施や健康管理に取り組む。

●個人事業者等に対する安全衛生対策の推進
【労働者の協力を得て、事業者が取り組むこと】

・労働者ではない個人事業者等に対する安全衛生対策については、「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会」における議論等を通じて、個人事業者等に関する業務上の災害の実態の把握に関すること、個人事業者自らによる安全衛生確保措置に関すること、注文者等による保護措置のあり方等において、事業者が取り組むべき必要な対応について検討する。

●業種別の労働災害防止対策の推進
ア:陸上貨物運送事業対策
【労働者の協力を得て、事業者が取り組むこと】

・「荷役作業における安全ガイドライン」に基づく安全衛生管理体制の確立、墜落・転落災害や転倒災害等の防止措置、保護帽等の着用、安全衛生教育の実施等、荷主も含めた荷役作業における安全対策に取り組む。
・「職場における腰痛予防対策指針」を参考に、作業態様に応じた腰痛予防対策に取り組む。

イ:建設業対策
【労働者の協力を得て、事業者が取り組むこと】

・墜落・転落のおそれのある作業について、墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのある箇所への囲い、手すり等の設置、墜落制止用器具の確実な使用、はしご・脚立等の安全な使用の徹底等、高所からの墜落・転落災害の防止に取り組む。あわせて、墜落・転落災害の防止に関するリスクアセスメントに取り組む。
・労働者の熱中症や騒音障害を防止するため、「職場における熱中症予防基本対策要綱」(令和3年4月20日付け基発0420第3号。以下「職場における熱中症予防基本対策要綱」という。)に基づく暑さ指数の把握とその値に応じた熱中症予防対策の適切な実施や「騒音障害防止のためのガイドライン」(平成4年10月1日付け基発第546号。以下「騒音障害防止のためのガイドライン」という。)に基づく作業環境測定、健康診断、労働衛生教育等の健康障害防止対策に取り組む。

ウ:製造業対策
【労働者の協力を得て、事業者が取り組むこと】

・はさまれ・巻き込まれなどによる労働災害のおそれがある危険性の高い機械等については、製造者(メーカー)、使用者(ユーザー)それぞれにおいてリスクアセスメントを実施し、労働災害の防止を図ることが重要であることから、「機械の包括的な安全基準に関する指針」(平成19年7月31日付け基発第0731001号)に基づき、使用者においてリスクアセスメントが適切に実施できるよう、製造者は、製造時のリスクアセスメントを実施しても残留するリスク情報の機械等の使用者への確実な提供に取り組む。
・機能安全の推進により機械等の安全水準を向上させ、合理的な代替措置により安全対策を推進する。

エ:林業対策
【労働者の協力を得て、事業者が取り組むこと】

・伐木等作業の安全ガイドライン、「林業の作業現場における緊急連絡体制の整備等のためのガイドライン」(平成6年7月18日付け基発第461号の3。以下「林業の緊急連絡体制整備ガイドライン」という。)等について労働者への周知や理解の促進を図るとともに、これらに基づき、安全な伐倒方法やかかり木処理の方法、保護具の着用、緊急時における連絡体制等の整備や周知、通信機器の配備、教育訓練等の安全対策を確実に実施する。

●労働者の健康確保対策の推進
ア:メンタルヘルス対策
【労働者の協力を得て、事業者が取り組むこと】

・ストレスチェックの実施のみにとどまらず、ストレスチェック結果を基に集団分析を行い、その集団分析を活用した職場環境の改善まで行うことで、メンタルヘルス不調の予防を強化する。
・「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)に基づく取組をはじめ職場におけるハラスメント防止対策に取り組む。

イ:過重労働対策
【労働者の協力を得て、事業者が取り組むこと】

・過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置に基づき、次の措置を行う。
①時間外・休日労働時間の削減、労働時間の状況の把握、健康確保措置等
②年次有給休暇の確実な取得の促進
③勤務間インターバル制度の導入など労働時間等設定改善指針(平成20年厚生労働省告示第108号)による労働時間等の設定の改善
・長時間労働による医師の面接指導の対象となる労働者に対して、医師による面接指導や保健師等の産業保健スタッフによる相談支援を受けるよう勧奨する。

ウ:産業保健活動の推進
【労働者の協力を得て、事業者が取り組むこと】

・事業場ごとの状況に応じた産業保健活動を行うために必要な産業保健スタッフを確保し、労働者に対して必要な産業保健サービスを提供するとともに、産業保健スタッフが必要な研修等が受けられるよう体制を整備する。
・治療と仕事の両立支援に関して、支援を必要とする労働者が支援を受けられるように、労働者や管理監督者等に対する研修等の環境整備に取り組む。
・事業者及び労働者は、産業医や保健師に加えて医療機関や支援機関等の両立支援コーディネーターを積極的に活用し、治療と仕事の両立の円滑な支援を図る。

●化学物質等による健康障害防止対策の推進
ア:化学物質による健康障害防止対策
【労働者の協力を得て、事業者が取り組むこと】

・化学物質を製造、取扱い、又は譲渡提供する事業者における化学物質管理者の選任及び外部専門人材の活用による次の2つの事項を的確に実施する。
①化学物質を製造する事業者は、製造時等のリスクアセスメント等の実施及びその結果に基づく自律的なばく露低減措置の実施、並びに譲渡提供時のラベル表示・SDSを交付する。SDSの交付にあたっては、必要な保護具の種類も含め「想定される用途及び当該用途における使用上の注意」を記載する。
②化学物質を取り扱う事業者は、入手したSDS等に基づくリスクアセスメント等の実施及びその結果に基づく自律的なばく露低減措置を実施する。

イ:石綿、粉塵による健康障害防止対策
【労働者の協力を得て、事業者が取り組むこと】

・適正な事前調査のため、建築物石綿含有建材調査者講習修了者等の石綿事前調査に係る専門性を持つ者による事前調査を確実に実施する。
・石綿事前調査結果報告システムを用いた事前調査結果の的確な報告及び事前調査結果に基づく適切な石綿ばく露防止対策を実施する。
・解体・改修工事発注者による、適正な石綿ばく露防止対策に必要な情報提供・費用等の配慮について、周知を図る。
・粉塵ばく露作業に伴う労働者の健康障害を防止するため、粉塵障害防止規則(昭和54年労働省令第18号)その他関係法令の遵守のみならず、第10次粉塵障害防止総合対策に基づき、粉塵による健康障害を防止するための自主的取組を推進する。
・トンネル工事を施工する事業者は、所属する事業場が転々と変わるトンネル工事に従事する労働者に対する健康管理を行いやすくするため、「ずい道等建設労働者健康管理システム」に、労働者のじん肺関係の健康情報、有害業務従事歴等を登録する。

ウ:熱中症、騒音による健康障害防止対策
【労働者の協力を得て、事業者が取り組むこと】

・「職場における熱中症予防基本対策要綱」を踏まえ、暑さ指数の把握とその値に応じた熱中症予防対策を適切に実施する。あわせて、作業を管理する者及び労働者に対してあらかじめ労働衛生教育を行うほか、衛生管理者などを中心に事業場としての管理体制を整え、発症時・緊急時の措置を確認し、周知する。その他、熱中症予防に効果的な機器・用品の活用も検討する。
・労働者は、熱中症を予防するために、日常の健康管理を意識し、暑熱順化を行ってから作業を行う。あわせて、作業中に定期的に水分・塩分を摂取するほか、異変を感じた際には躊躇することなく周囲の労働者や管理者に申し出る。
・労働者の騒音障害を防止するために、「騒音障害防止のためのガイドライン」に基づく作業環境測定、健康診断、労働衛生教育等に取り組む。

エ:電離放射線による健康障害防止対策
【労働者の協力を得て、事業者が取り組むこと】

・東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に向けた作業(以下「廃炉作業」という。)や帰還困難区域等で行われる除染等における作業に従事する労働者に対する安全衛生管理、被ばく線量管理、被ばく低減対策、健康管理等を徹底する。
・東京電力福島第一原子力発電所での緊急作業に従事した労働者に対して、「原子力施設等における緊急作業従事者等の健康の保持増進のための指針」(平成27年8月31日健康の保持増進のための指針公示第6号)に基づく健康管理を実施する。
・医療従事者の被ばく線量管理及び被ばく低減対策の取組を推進するとともに、被ばく線量の測定結果の記録等の保存について管理を徹底する。

厚生労働省では、この答申を踏まえて計画を策定し、目標の達成に向けた取組を進めていくということです。

詳しくは下記参照先をご覧ください。

参照ホームページ [ 厚生労働省 ]
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_31063.html
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